善は作られる | Righteousness is an artifact.

「正法眼蔵」とは正しく伝えられた仏法の要点(眼)の集成(蔵)という意味だが、ここまで見てきたところ、どうやらその要点は「点」ではなさそうなのだ。正法とはこれとこれとこれです、という形で示せない。正法は「これ」であったり、なかったりする。 諸悪なきにあらず、莫作まくさなるのみなり。諸悪あるにあらず、莫作なるのみなり。|正法眼蔵第三十一・諸悪莫作 たとえば諸悪はないわけではなく、あるわけでもない。有か無かという選択が、仏法にはないのだ。諸悪に対してはただ「莫作(作さない)」だけだという。どういうこと?同様のことが衆善(=諸善)についても言われる: さきより現成して行人をまつ衆善いまだあらず。作善さぜんの正当恁いん麼も時、きたらざる衆善なし。万善は無象なりといへども、作善のところに計会すること磁鉄よりも速疾なり。|同上 あらかじめ善というものが存在して人が来るのを待っているなんてことはない。善は有るのではなく、作すのだ。有る善を作すのではなく、作すところに善が出来る。どんな善もそれ自体に善の象かたちが定まってはいない。だが作善するまさにその時(正当恁麼時)、万の善が、磁石に引き寄せられる鉄片よりも速く集結する。 行為をベクトル、行為の対象を点で示せば、道元は世界を点の巨大な集合ではなく、ベクトルの海とみているようだ。海流にしたがって無数億の点が離合集散し、ところどころに島ができている風景。   Although 'Shōbōgenzō' –– Treasury of the True Dharma Eye –– literally means “Collection of the True Dharma Points”, they do not seem to be a collection of points; you will not be able to point to this dharma or that dharma in the collection. A dharma could be... Continue Reading →

月と水 | Reflection on subtleness

正法眼蔵「諸悪莫作(しょあくまくさ)」の巻にいう、「悪の人ををかさざる道理しられ、人の悪をやぶらざる道理あきらめらる」。 どういうこと?悪は人を冒すから悪と呼ばれるのではありませんか?人は悪を破り、善を行なうべきなのではありませんか?(「あきらめらる」=明らかにされる) まず、この文が「現成公案」の巻の次の文と同形であることに気づく: 人のさとりをうる、水に月のやどるがごとし。月ぬれず、水やぶれず。 (人が覚りを得るとき、それは月が水にその影を宿すのに似ている。月は濡れることなく、水面は微動だにしない) ひろくおほきなるひかりにてあれど、尺寸の水にやどり、全月も弥天みてんも、くさの露にもやどり、一滴の水にもやどる。 (広く大きな光だが一尺一寸の水に宿り、満月も満天の星も草の露・一滴の水にも影をうつす) 月と水と、その物理的な大小はキャンセルされて、互いに他を少しも礙さまたげず、対等で繊細な関係にある。さとりと人の関係はそうあるべきだというのだ。 驚くべきは、悪と人の関係も同様だというところにある。排除か容認かの単純判断ではなく、複雑にしてデリケートな態度を「やぶらざる、をかさざる道理」と表現しているように思える。これは悪や善の問題ではたぶんないのだ。「問題」への態度が問題なのだ。 地球上で起きるできごとの大部分を、異なる二つのものの遭遇、接触、連結、分離の繰り返しと考えるなら、道元はその接触の様式について考えている。これをいかに洗練させるか。それは人の行動様式、したがって心の様式を洗練させることに結びつく。人が遭遇する対象が「さとり」であるか「悪」であるか「月」であるか「水」であるかは問わない。ぬれずやぶれずの作法はしずかに拡散して、現代のたとえば妹島和世の設計した美術館のファサードにもやどっている。そのアルミニウムの簿壁は「内」と「外」とを絶妙の繊細さで触れさせている。 In the chapter of “Refraining from Evil”, Dōgen wrote: You will know the idea that evil does not affect a person and a person does not disrupt evil. What is that idea? Evil is called evil because it affects people, isn’t it? People should disrupt... Continue Reading →

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